「寄せ場用語」の基礎体力(生活編)
ドヤ
簡易宿泊所のこと。宿(やど)を「人がすむところではない」と自嘲的に逆さまに読んだのが始まりといわれる。寿は1955〜65年頃にできた新しいドヤ街である。門限がない、靴などを途中で履き変えることなく自分の部屋までいける、などは他のドヤ街と違う特徴である。その意味で宿泊者は「客」でなく「住人」であり、ホテルよりもアパートに近い。おそらく、港湾労働の形態に合せてそうなったものだろう。
ドヤ券
横浜市中福祉事務所の発行する宿泊チケットのこと。1500円までのドヤに宿泊できる。しかし自分でドヤをぐるぐる回って探さなければならない。部屋が開いていても帳場が断ることもあり、泊れない場合(「カラ券」)もある。
パン券
横浜市中福祉事務所の発行する買物チケット。たばこと酒以外を所定の店で買うことができる。ただし、労働者が使える金額は、1枚でたった690円(消費税を含めて711円)でしかない。
野宿
野宿のこと。凍てつく寒空の下で寝るから「青寒」と書くという説と、「青空簡易宿泊所」の略称だという説とがある。関西方面では、「野宿」は「野外レイプ」を意味するので、この言葉を嫌って使わない人もいる。行政やマスコミの用語は「路上生活者」。
マグロ
路上強盗のこと。山谷では「シノギ」と言う。出張仕事の帰りなどまとまった現金をもっている労働者や老人や身体の悪い人を計画的に狙い、暴力で金品を巻き上げる。皆にとって絶対許せない存在。見つけたら、皆の怒りを自身の身体でわかっていただく。
日雇労働者特例健康保険
社会保険や政府管掌保険の日雇労働者用の制度。しかしほとんど使われていない。掛金は労働者と業者の折半負担だが、印紙代は高く、土木建設業で加入している業者は少ない。2ヵ月で28枚を集めた場合に限り制度が利用できる(集めないと掛け捨て)が、その際には「日雇労働者特例健康保険手帳」とは別の健康保険書をもらわなければならない。日雇労働者の多くは国民健康保険に入っている。
生活保護
日本国憲法第25条に基づいて「最低限の生活を保障する国の責任」として生活保護法は規定されている。内容は、生活扶助、住宅扶助、教育扶助、医療扶助、出産扶助、生業扶助、葬祭扶助の7種類に分れる。現実には福祉事務所の窓口で要件を満たすかどうをしつこく調べられたり(「なぜ働かないのか」とか)、いやな思いをすることがあるので「福祉の敷居は高い」「福祉の世話になんかなりたくない」と言う人もたくさんいる。また「失業」を理由にしての生活保護は受けられない。実態は、高齢か「なんらかの病気」を持っていい限り、生活保護を受け続けることができない。
「寄せ場用語」の基礎体力(労働編)
白手帳
雇用保険日雇労働被保険者手帳のこと。手帳の登録に「住民票提出の義務化」が強行されたが、寿では「居住証明」(組合発行など)で白手帳が取れる。「住民票義務化」以降、山谷や釜ケ崎では白手帳を持つ労働者が激減した。手帳はアブレや一時金の前提条件。
アブレ
日雇労働者失業保険。2ヵ月で28枚の印紙を貼ると、3ヵ月目から「アブレ」がもらえる。1日分が6200円。最高で13日分支給。
印紙
雇用保険印紙のこと。越冬の始まりの頃には印紙を貼る業者も1〜2割だった。年末一時金闘争を契機に印紙が定着するようにな今はほとんどの業者が印紙を貼る。
餅代
年末一時金。「餅代」と言う。行政(神奈川県労働部)は「福祉金」と言う。年末一時金が出るのは山谷・釜ケ崎・寿だけ。支給基準は6月〜11月間に印紙が3枚以上貼ってあること。
契約
一定期間、同じ会社で働く。
出張
「契約」の一種で、遠方に働きにいくこと。
直行
1つの会社(現場)に直接働きにいくこと。
現金
1日ごとの仕事。
顔づけ
手配師や社長が声をかけて優先的に雇うこと。
デズラ
「出面」と書く。日払い賃金。寿の最近のデズラは「土工」でだいたい11000円〜13000円。
ヌキ
食事を含まない賃金。「コミ」は食事を含まない賃金で、表示金額から食事代を引かれる。
飯場
宿舎。
センパク
「船舶」と書く。港湾関係の仕事。船舶以外の仕事を「オカ」という。
ケタオチ
賃金が極端に安い現場・業者のこと。
ウワカタ
「上肩」と書く。港湾の仕事は、@船内A沿岸に分れ、沿岸荷役作業として「肩」「上肩」(重量の違い)などがある。
土工・雑工
職種の1つ。土木建設業で最も賃金が安く、様々な仕事をする。
コンクリ打ち
コンクリート打設(だせつ)作業。
バイキ
袋物の仕事。
ネギリ
「根伐」と書く。地盤の掘削。穴掘り。
ネマキ
仮枠と床の隙間をコンクリートが流れないようにモルタルでうめる作業。
トンコ
宿舎からの逃亡。また、現場からの逃亡は「ケツワリ」という。
ばんわり
「番割」と書く。宿舎や現場の人数の割り振り。
ボーシン
「棒心」と書く。飯場・現場の世話役。
追回し
現場監督や棒心が暴力的に労働強化をしいる。契約の終わりが近づくと、わざと追回しをして労働者に逃亡するように仕向け賃金を払わない悪質な業者もある。昔は、本当に棒を持って追回した。
『第25次寿越冬ノート』(1998年12月27日発行)より引用